2020年の自転車業界をベテランジャーナリストが総括!(後編)

前回に続き、日本を代表するベテラン自転車ジャーナリストのお2人、菊地武洋氏と山本健一氏が、Probikeshopのオフィスで対談! ポストコロナのモビリティツールとして注目を集めるロードバイクやクロスバイクが、現在、どのようなトレンドを歩んでいるのか、2人が注目しているアイテムを挙げてもらいました。お2人の対談、お楽しみください。
GARMIN『Egde』は大のお気に入り!
菊地:今回は、ユーザーの立場から2020年の製品などを振り返ってみようか。
山本:GARMIN『Edge 1030 PLUS』を買ったんですよ。あれめちゃくちゃいいですね。月1回、300㎞くらい走ったりしていて、先日は500㎞ほど走りましたが、40%くらいバッテリー残量があるんです。ナビ機能も充実していて。途中でルートをロスしても、カーナビみたいに素早くリルートしてくれるので、ストレスがない!
菊地:僕はGARMIN『Edge 1000J』からGARMIN『Edge 830』にしたよ。
山本:GARMIN『Edge 830』も機能的には同等ですよね。最新モデルはレスポンスが良くてストレスがない。もう、大のお気に入りです。
菊地:僕も今のところ、なんの不満もないな。正直に言えば、機能がそんなに増えるわけでもないので買い替えるか迷ったんだけど、サクサク動くので買い替えてよかったと思ってる。
気になる3Dプリンターのサドル
菊地:買ってはいないけど、気になっているモノはある?
山本:サドルが気になってます。これまでSELLE SANMARCO(セラ サンマルコ)のストラーダがとても気に入っていて、おそらく一生分ぐらい持っているんですけど……。最近、1時間くらい乗るだけでも痛くなっちゃうんです。
菊地:で、新しいモノが気になるわけだ。
山本:古い製品にすがっていても仕方ないですから。SPECIALIZED(スペシャライズド)の『S-WORKS POWER WITH MIRROR SADDLE』や、fi'zi:k(フィジーク)の『ANTARES VERSUS EVO 00 ADAPTIVE』を試してみたいですね。
菊地:同感! 手頃な価格ではないので、いくつも買って試すには勇気がいるけどね。3Dプリンターを使った部品は、サイクルコンピュータのマウントなどアクセサリー関係で少しずつ発売されてきたけど、流れが一気にきたね。まさかサドルの緩衝材として3Dプリンターが採用されるとは考えもしなかったな。
山本:機材として重要な場所にも使われるようになりましたね。
菊地:3Dプリンターの可能性から考えるなら、ユーザーに合わせたワンオフパーツに期待がかかるね。ステムとかシートポストとかはニーズもあるだろうし、走行中の加圧データを取ってサドルが作れるようになったら面白いな。
山本:そうですね。いずれは自宅で作れるようになるのかな?
菊地:その方向で進化するよね、普通に考えれば。
山本:そうなりますよね。
菊地:使ったことはある?
山本:友人のホビーレーサー・高岡亮寛くんが日本縦断に挑戦したときに、使っていたんですよ。2600㎞も走ったので、臀部が痛いと言ってましたけど、一般的なサドルと比べたら全然ストレスがなかったみたいですよ。
菊地:そうなんだ。
山本:スペアも用意していったんですけど、最後までそのまま乗り切っていました。
菊地:サドルばかりは自分で使ってみないと、なんとも評価できないから、2021年はぜひとも試してみたいな。
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ディスクロードも軽さを追い求めるフェーズに!
菊地:2020年はSPECIALIZED(スペシャライズド)が『AETHOS』と『TARMAC』を新しくしたのも、大きなトピックだったと思うけど、どう思う?
山本:『TARMAC』は完全にコンペティション、『AETHOS』の方はホビー色が強くて、軽いものが好きな人をターゲットにした製品ですね。
菊地:『AETHOS』には乗った?
山本:はい。あれだけ軽い(フレーム重量585g/56㎝)のに危うさがなくて、ちゃんとしている。ホイールによって印象は変わるでしょうけど、それは軽量バイクの宿命みたいなものですね。
菊地:ピーター・デンクが開発に携わっていて「剛性には一切の妥協をしなかった」と言っていたらしいよ。僕はまだ『AETHOS』に乗っていないんだけど、彼は世界的にも評価の高いエンジニアだし、過去に彼が作ったバイクが好きなので、自分で買いたくなるんじゃないかって期待している。
近年はエアロバイク一辺倒だったけど、TREK(トレック)『Émonda』も新しくなって、ついにディスクロードも軽さを追い求めるフェーズに入ったように感じてる。そのへんどう思う?
山本:マーケティング戦略なんでしょうけど、トレンドが変わっていくのは悪いことじゃないと思います。
菊地:ディスクブレーキ化とともに、軽量性よりも機能性が重視されるようになって、空気抵抗を小さくするエアロ重視になっていたもんね。
山本:エアロと言っても自転車の場合、人間の空気抵抗に比べたら自転車の抵抗なんて10%くらいですから、必要以上に気にしなくてもいいかなと思います。空力を本当に重視したら、イギリスナショナルチームが東京五輪で投入する予定だった『Hope/Lotus HB.T』みたいな奇抜な形になっちゃいますよね。
ロードバイクにとって大切なのは、ライダーが気持ち良く乗れることじゃないですかね。シャープなバイクに乗って「オレ、速いかも」って思えたり、「来週も乗りたいな」って思えたりするなら、それだって性能です。だから、好きなバイクを選んで乗ればいいと思うんです。
菊地:そういう意味では、エアロというトレンドはスタイリッシュだったな。
山本:性能もいいですけど、カッコいいですからね。
魅力的なE-Bike
菊地:2020年はヨーロッパよりもアメリカンブランドの勢いを感じる年だったね。あとはE-Bikeか。Eスポーツバイクのラインナップも増えたけど、思うことはある?
山本:E-Bike、僕は大歓迎です! 日本は急勾配の短い坂が多いので、E-Bikeはみんなを自転車に乗る気にさせてくれると思っています。バッテリーの寿命も長くなったし、バイクのデザインもスタイリッシュなモノが増えてきて、いい傾向ですよね。多分、僕もそのうち乗るのかなって考えますよ。
菊地:オンロード? それともオフロード?
山本:このままいけば、オンロードに乗るんでしょうね。でも、もっと余裕があれば、山遊びに使ったりしたいです。E-Bikeはオフロードの方が、親和性が高いでしょ!?
菊地:日本の法規なら、アシスト力を有効に使える速度レンジの低い走り方の方がE-Bikeと相性はいい。だから、グラベル系のモデルの方が魅力的に映るね。
山本:グラベルとかエピックなところに誰でも行けるので、イベントも盛り上がるし、走りにいこうっていう気持ちになりますよね。そうして、E-Bikeによってサイクリングがメジャーになる……という可能性があるのはいいですよね。
菊地:グラベルロードはE-Bikeに限らず、ツーリング用バイクとしても魅力があるしね。未舗装路を走る? って聞かれたら、そんなには走らない。けれど、行こうと思えば行けるという選択肢だけでも価値があるし、ツーリング用にもいい。
山本:グラベルバイクって、子供も好きだし、カッコいい。旅というか、アドベンチャー的な雰囲気もあって刺激されますよね。あれ見て、ちょっと乗ってみたいなとか、素直に思いますね。
菊地:ロードバイク用タイヤも30㎜くらいの太いやつが発売されて、ちょっとくらいの未舗装路なら行けちゃうんじゃない? みたいな感じもあるよね。
山本:ジャンルの境界線が希薄になっている感じがしますね。
ワイドタイヤが走行性能を加速する
菊地:ところで、現在、幅何㎜のタイヤを使っている?
山本:28㎜です。
菊地:28になったんだ。
山本:年齢じゃないですよ。(笑)
菊地:だったら、オレは23㎜にしようかな。。
山本:菊地さんもそうですけど、僕がロードバイクを始めたころはタイヤ幅って21㎜が標準でしたよね。それが28㎜まで幅が広がったわけですよ。
菊地:そうだねぇ。でも、際限なく太くなるわけじゃない。現段階においては28㎜がベストかな。30㎜だと、ちょっと重い。
山本:GOODYEAR(グッドイヤー)のタイヤを使っているんですけど、重量を測ると220gしかないんです。太くなればなるほど、転がり抵抗が減るので、ワイドタイヤの弱点は重さだと予想したんです。
菊地:なるほど。
山本:というわけで、太くて軽いタイヤを使ってみると、走行感が軽いんですよね、すごく。大げさじゃなく、すさまじい軽さ。これ、本当に人に教えたくないなってくらい。走りはいいし、クッション性も高い。
菊地:近年のタイヤの進化は目を見張るものがあるね。5年ぐらい前かなぁ、標準タイヤが25㎜になって、その次に業界としては28㎜を標準化したいと狙っているって聞いたのは。ならば、早速……と28㎜を装着したけど、日本の路面には不要だなって思った。それが、もう30㎜を視野に入れている感じがあるもんな。
山本:タイヤだけでなく、フレームの進化もありますね。
菊地:確かに。今、ワイドタイヤが入らないと、とても古いイメージになるよね。昔はクリアランスが小さい方がレーシーで良しとされたのに、逆転しちゃったもんね。
山本:そして、リムも進化した。もうC17(リムの内幅が17㎜)が旧世代だなって感じる。何度も言うようですけど、ボリュームのあるリムにワイドタイヤの組み合わせは、本当に相性がいい!
菊地:細いタイヤに、カンカンに空気を入れて……という環境でロードバイクの“いろは”を学んだので、太いタイヤの方が軽く走るというのは理屈で分かっていても、やはり不思議でならないね。
山本:この間、520㎞ほど1日で走ったんです。
菊地:サラッと過激なことを言うよね。
山本:東京から大阪まで。20時間くらいかかりました。そのときに、C17のリムに28㎜のタイヤをセットしたんです。6barだとあまり走らなかったので、6.5barにしたらとても印象が良くなった。
後日、同じタイヤを内側25㎜くらいのリムにセットしてみたら、5.5barとか5barでも走りがすごく軽い。改めて、変形率の重要性を体感しました。タイヤってすごい大事だなって思いました。
ワイドタイヤの時代がやってきた!
菊地:ディスクブレーキの時代がやってきたといわれるけど、その本質はワイドタイヤの時代がやってきた! だよね。
山本:そう、まさにその通りです。タイヤを太くするために、ディスクブレーキにしたイメージですね。タイヤ選択の自由度が増したので、誰にでも乗りやすくなったし、コースの選択幅も広くなった。
菊地:マニアックな話だけど、タイヤが太くなるとフォークブレードが長くなるでしょ。しかも、ディスクブレーキに対応するとなると、既存の材料を用いた金属フォークではカーボンフォークに太刀打ちできないでしょう。そう考えてみると、速さを正義とする世界においてスチールフレームの役目は終わったんだなと思った。
山本:ホイールベースが長くなって、ジオメトリーも変わりましたね。(スチールだと)昔あったコンフォートバイクのような感じになっちゃうでしょう。
菊地:コンフォートバイクって言葉、久しぶりに聞いた(笑)
山本:そういえば、コンフォートバイクってなくなりましたね。その辺がディスクブレーキやタイヤの進化によって、淘汰されたのかな。
菊地:ロードバイクで快適性が求められないバイクなんて存在しないからね。そして、チェーンステーが長くて、タイヤが太い自転車をコンフォートバイクという特徴は、今やレース用バイクも一緒だから。エアロにしたって、どの自転車だって空力は優れている方がいいし、重量は軽いほうがいい。しかもフックレスリムになっちゃうと、空気圧も3bar台だからな。
山本:フックレスリムによる高性能化を支えているもタイヤですよね。
菊地:うん。
山本:現状、タイヤとリムの組み合わせが限定されているので、普及するには難しい問題もありますよね。規格が乱立しちゃうのは、あまり良くないと思います。
菊地:進化のため、可能性を探るのはいい。でも、製品化したなら中途半端に生産を止めちゃうようなことはしちゃいけない。フックレスリムのホイールが欲しいけど、タイヤが継続的に供給されるか不安があるよね。
それにしても、ワイドタイヤによる走行感の向上は大きいけど、それってセッティングが決まった時だけでしょ。さっきリム幅による空気圧の違いについて話していたけど、スイートスポットを外すと突然走らなくなったり、跳ねてコントロールしにくくなったりしちゃわない?
山本:そういうのありますね。アバウトに乗ると楽しくないですね。ちゃんときっちり合わせていくというのは、最近の傾向としてあるかもしれない。
性能だけを追うなら、間違いなくチューブレス!
菊地:サーキットを走っているわけじゃないから、スイートスポットが大きくならないと扱いにくいね。ま、そこが課題だし、伸び代でもある。ところで、今はクリンチャー? それともチューブレス?
山本:クリンチャーですね。チューブレスはパンクしたときに、シーラント(パンク修理剤)で復旧できればいいけど、そうでないときは非常に難しいというか……、運用がしにくいですよね、すごく。パンクして帰宅したあとも、ホイールやタイヤをどこで洗うのか? とか面倒くさい。リムとビードの密着が強くて、その場で外れないという話もよく聞きます。なので、エントリーユーザーには難しいかな。ショップに直行できる環境だったらいいですけど。クリンチャーの走りもそんなに悪くもないですからね。パンクしたときも、チューブを替えるだけなので早いですし。菊地さんは?
菊地:チューブレスとクリンチャーだね。チューブレスレディは山本くんが指摘する通りで、面倒が多い。チューブレスは衰退方向で、チューブレスレディがメジャーになりつつあるでしょ。シーラントは本当にハンドリングが悪くてへきえきしているけど、いずれ弱点を克服すれば魅力になると思って、それはそれで継続して使っている。
山本:噴水のようにシーラントが噴き出す泡を茫然と見るのは、たまらないですねぇ。
菊地:いろいろ試したけど、エアを止める力はPanaracer(パナレーサー)のシーラントがいい。ただ、耐久性はないからメンテナンスの頻度は高くなってしまうけどね。
山本:運用期間が短いのか……。
菊地:ショップさんのオススメだったんだけど「3カ月くらいで固まっちゃいますよ」って言われたよ。この間、パンクしたんだけど、あっという間に穴を塞いでくれたよ。あとでホイールを洗うのは面倒くさいけどね。
山本:ダート用タイヤではポピュラーな穴を塞ぐプラグ。あれはどうなんですかね。
菊地:タイヤメーカーの開発の人に聞いたんだけど、「ロードバイクでは難しい」と言っていたよ。
山本:耐パンク性能というかメンテナンス性が画期的に改善されれば。チューブレスの走行メリットというのは、たくさんあるので喜んで使うんですけどね。
菊地:プロのロードレースみたいにサポートがついてくれて、走ることに専念すればいいだけなら、絶対にチューブレスでいく。
山本:そうですね。すぐバックアップがあって交換してくれるんだったら、チューブレスを使うでしょう。
菊地:性能だけを追うなら、間違いなくチューブレスタイプだと思う。
山本:それは100%言えますね。
菊地:タイヤについては方向性がまとまったので、次は2021年にデビューするであろうプロダクトや、期待される展開について話をしましょうかね。
お2人の対談、いかがでしたか!? 次回の対談もお楽しみに!
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菊地 武洋(きくち たけひろ)
自転車ジャーナリスト。
80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。
近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。
レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。

山本 健一(やまもと けんいち)
サイクルジャーナリスト(人力バイクのほう)。
ジャーナリスト歴20年、自転車競技歴25年の公私ともに自転車漬け生活を送る。新作バイクレビューアー、国内外レースイベントやショーの取材、イベントディレクターなど、活動は多岐にわたる。