2020年の自転車業界をベテランジャーナリストが総括!

日本を代表するベテラン自転車ジャーナリストのお2人、菊地武洋氏と山本健一氏が、Probikeshopのオフィスで対談! クロスバイクやロードバイクなど、自転車は、ポストコロナのモビリティとして注目を集めると同時に、ストレスを解消するアクティビティとしても人気が再燃しました。今回は、コロナ禍で大きく様変わりした2020シーズンの自転車業界を振り返っていただきました。お2人の対談、お楽しみください。

コロナに大きく惑わされた1年

菊地:2020年の自転車業界は、なにを語るにもコロナに大きく惑わされた1年だったね。山本くんは主催者側の立場としてもイベントに関わっているけど、どんな影響があった?

山本:2月からコロナの影響が出始めて、3月からぐっと感染者が増えましたよね。6月以降はイベントがほとんどできない状態となってしまい、選手の皆さんはスケジュール管理とか大変だったと思います。

菊地:まさかツール・ド・フランスが8月下旬に開幕するなんて……

山本:生きているうちに、そんなことがあるなんて想像もしなかった。

菊地:しかし、レースの内容は充実していたし、面白かったね。ツールもジロ(デ・イタリア)も最後に大逆転というドラマチックな展開だったでしょ。個人総合優勝はT・ポガチャルとT・ゲーガンハートという若い2人が出てきたし。

山本:若者が遠慮せずにガンガン来たかなって、そんなイメージですね。エースとアシストとの関係が、このシーズンは希薄というか若い選手が遠慮せずにやっているような、そんなイメージがありましたよね。ただ、この2人はけっこう前から強いといわれていたので、意外性はなかったですよね。

菊地:ヨーロッパのプロレースは面白かった。

山本:えぇ、例年になく面白かったですね。

菊地:事情が事情だとはいえ、機材面はおとなしかった気がしない?

山本:印象的だったのは、最新のディスクブレーキがついたロードバイクがいっぱいレースに出ていましたけど、優勝争いをしているポガチャルやP.ログリッチはリムブレーキだったこと。ゲーガンハードもそうでしたよね。

菊地:今でもリムブレーキがいい?

山本:大きな差は感じないですけど、ちょっとしたところにディスクブレーキの良さは感じます。タイヤ幅に由来するコーナリングもそうだし、雨が降ればディスクブレーキのほうが制動力は優位性があると思います。でも、リムブレーキのほうが美しいと思いますね。

菊地:そして、コルナゴがツール・ド・フランスで初優勝と騒いでいるのに驚いた。まだそこにこだわるのか! って。

山本:そういうのみんな関心がありますからね。

菊地:機材の話でいうなら、コルナゴよりも新型デュラエースが見られなかったのは意外だったよね。

山本:オリンピックイヤーで、必ず出るだろう……と思っている人は多かったでしょうね。やっぱりやらないってなったら、引っ込めたってことですかね?

菊地:どうなんだろうねぇ。シマノに言わせれば、「新型デュラエースが出るなんて話は一切していません」って言うだろうね。それにしても、新製品がとても少なかった。

山本:年間を通してみると、グラベルとかオフロード系のほうが活発でしたね。オリンピックイヤーだったので、トラック用はイギリスのロータスや、ブリヂストンが意欲作を出しましたけど、ロードバイク用はおとなしかったですね。

ストレスフリーな大会

菊地:話を戻すようだけど、例年と比べたら、山岳ステージ山に人がいなかったでしょ。あれ、どう思う?

山本:あれくらいのほうが、選手は走りやすいんじゃないかなと思います。

菊地:そう思う。寂しいっていう声もあったけど、今年は、観客に邪魔されないで、ピュアに選手同士が戦えたかなって。現地で観戦するなら山に行きたいけど、テレビ観戦サイドとしては、今年のパターンもありだと思った。

山本:そうですね。余談なんですけど……
2019年にオリンピックのプレ大会(READY STEADY TOKYO-自転車ロード)をやりましたよね。

菊地:オリンピックコースでやって、ウリッシ(イタリア)が勝ったレースね。

山本:海外の監督が「すばらしいオーガナイズで、最高だった」って言っていたんです。「え?どこが?」と言ったら、コースにパイロンが並べてあったでしょ。あれで一切人も車もいなかったから、選手が大絶賛してたそうなんです。

菊地:日本人からすると、ヨーロッパ風のほうがいいように見えるけどな。

山本:ヨーロッパだと路肩に自動車が停まっていたり、観客が身をのりだしたりとか、ネコが飛び出したりとか、そういうのが日常茶飯事なんですけど。そういうのが一切なかった……と。それを聞いたときに、華やかな反面、選手たちは、そういうストレスを抱えているんだなって思ったんです。

新規のオーダーは、400日待ちも!?

菊地:あと、2020年は世界的にすごい自転車が売れたってニュースになったね。

山本:パリなんて、レンタル自転車が出たけど、元々は自転車が少なかったのに、ニュースを見てびっくりしました。こういうことになるのかって。現地に住んでいる人にも話を聞いたら、やっぱり映画みたいっていうか、現実じゃない感じだったそうですよ。

菊地:現在、新規のB to Bでフレームや、クロスバイクとかロードバイクを注文しても、納期が400日とか言っているらしい。

山本:400日待ち!

菊地:プレオーダーをしているものは違うらしいけど、自転車が売れているのは間違いない。しかも、このにわかブームで自転車を買っている人たちって、特別、自転車が好きなわけではない。

山本:クロスバイクは、実用品ですからね。

菊地:満員電車を避けるために……とかね。でも、これまでアプローチできなかった新規の人たちが増えたのは、いいことだよね。スポーツバイクって乗ったら楽しいから、乗っているうちにサイクリングが好きになる。それにしても、コロナ禍で自転車が売れる!とは、すぐに考えが及ばなかった。

山本:僕も、はっきり言って考えていなかったです。でも、東日本大震災を思い出しました。あの時も自転車が注目されましたよね。今回は電車とか、3密を避けるということで自転車が人の役に立つんだなって痛感しました。僕たちは、普段、自転車に乗りまくっているだけだから、そういうことを考えたことはなかったんですけどね。

菊地:このチャンスを、自転車業界がどう活用していくのか楽しみ。走る環境の整備も少しずつ進んではいるものの、まだ量もスピードも満足にはほど遠い。その証拠に緊急事態宣言中でもサイクリングロードは混んでいたよね。

山本:週末は特に、スポーツを楽しむ人々で混雑していた状況でした。

菊地:サイクリストって、こんなにいっぱいいるのかって驚いた。中には古い自転車を復活させたんだろうなって人もたくさんいたよね。

山本:新車が売れたのと同じように、修理も増えたようですね。ショップは忙しかったみたいです。

走るだけでなく、SNS要素も含まれているオンラインサイクリング「ズイフト」

菊地:レースやイベントに出たい人にとっては目標を見失いがちなところに、オンラインサイクリングのズイフトが出てきたね。

山本:ズイフト自体はコロナ禍以前からありましたが、いよいよ本領を発揮したって感じですね。

菊地:山本くん、ゴールデンウイークのとき、ものすごい乗ってたよね? 

山本:8日間で1800㎞かな。あれはランキングを競っていたんです。僕はイベントの主催者側だったので、ちょっとやってみようかなと。

菊地:1800㎞ってとんでもない距離だと思うんだけど、やってみた感想は?

山本:目標があったので、楽しかったですよ。充実してましたね。家族はあきれてましたけど、面白がって応援してくれました。

菊地:パパ、またやってる…。

山本:何やってるんだ、と。

菊地:ズイフトで10万㎞走った人の取材をしていたよね?

山本:1800km走ったゴールデンウイークのイベントで、僕は2位だったんです。1位がIさんという方なんですけど、ズイフトの世界で12番目に走行距離10万kmを達成していて、日常的に月5000㎞も乗るんです。

菊地:一歩間違うと病的だな、室内で5000㎞なんて。

山本:ズイフト内では、ワークアウトもやるんですけど、その最中にプレイヤー同士でチャットをするんです。そのやり取りがすごく楽しいってよく聞きます。冗談だったり、日常のくだらない話だったりなんですけど、それがすごくおもしろいそうです。

そのために早起きして、室内で乗っている。辛くないんですか? って聞いたら、辛かったらやりません。楽しいからやってるんですって。そこは、続けていくためにすごく重要なことだと思います。

菊地:3本ローラーとか、室内のトレーニング用のアイテムって、これまでにもたくさんあったけど、ズイフトは世代が違うというか、また違う世界が広がっている気がする。

山本:より、趣向を凝らした世界観があります。

菊地:トレーニングだけでなく、レースもできるもんね。

山本:そうですね。イベントがあって、目標を設定しやすかったりとか。そういうすごく心理的に、興味をそそるようなことが、けっこううまいというか。すごくわかりやすい。

菊地:コロナ禍が収束したあともやはり定着すると思う?

山本:これは残ると思います。飽きないし、飽きないさせない仕組みがある。他人との交流もあるから、SNS的な要素もある。そこがすごく強くて。一回紐づいた絆って、なかなか強いものですから。これはずっと残るんじゃないですかね。日本でも一部の愛好者がズイフト内にコミュニティーをつくっていて、オンラインチームみたいなものができてますしね。

菊地:時差を利用すると、ヨーロッパ勢がいっぱい走っている時間があったり、アメリカ勢がいっぱい走っている時間があったりとか。面白い感じだよね。

山本:たとえばヨーロッパで始まったイベントとかあるじゃないですか。日本人が参加する場合、時差の関係で7時間早いですから。最初に達成できるという、時差ならではの現象が起きていますね。

菊地:こういうのは、今までなくて、今年のおもしろかった1つだね。

お2人の対談、いかがでしたか!?
次回は、2020シーズンの機材面について、振返っていただきます。お楽しみに!

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菊地武洋

菊地 武洋(きくち たけひろ)

自転車ジャーナリスト。
80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。
近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。
レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。



山本健一

山本 健一(やまもと けんいち)

サイクルジャーナリスト(人力バイクのほう)。
ジャーナリスト歴20年、自転車競技歴25年の公私ともに自転車漬け生活を送る。新作バイクレビューアー、国内外レースイベントやショーの取材、イベントディレクターなど、活動は多岐にわたる。