2021年版 「グラベルロードバイク」の選び方

現在、欧米で一気に人気が高まっているのが、新ジャンルの「グラベルロードバイク」です。まだ誕生から間もなく、成長しつつある分野なので、さまざまなメーカーから個性的なモデルが登場し、遊び方も次々に編み出されています。2021モデルが出揃ってきたので、どんなポイントに気を付けるべきか選び方を紹介していきます。
目次
グラベルロードの守備範囲は?
「グラベルロードバイク」の守備範囲はクロスバイク以上、MTB未満です。登山道のようなシングルトラックを除けば、かなり広いフィールドで楽しむことができます。路面だけでいえばシクロクロス車に近いですが、タイヤが太く空気量が多いため、ツーリング車として活躍させることもできます。このため、「オールロードバイク」や「アドベンチャーロードバイク」と呼ばれることもあります。楽しみ方が豊富なので、自分の遊び方に合わせて、適切なモデルを選びましょう。
タイヤのスペックでバイクの方向性を知る
「グラベルロードバイク」に限った話ではありませんが、完成車にどんな標準タイヤが装着されているかは、バイクを選ぶうえでの一つの判断基準になります。タイヤは消耗品であり、コストカットされやすいパーツだからです。
タイヤは走る・曲がる・止まるという全ての基本性能に重要に関わるパーツです。どんなに高価なフレームやコンポーネントパーツが組み込まれていても、タイヤがプアではフレームやパーツの性能を引き出せません。
一般的に「グラベルロードバイク」に装着されているタイヤ幅は30-50Cです。数字上でいうと20㎜ほどですが、実際にはもっと大きな差があります。30Cだとクロスバイクに近く、50CではほぼMTBと変わりないので、同じフレームでも完成車のスタイリングは大きく異なります。大雑把に言うとタイヤは太くなるほど走破性が高く、細くなるほど巡航速度が高くなります。
タイヤのトレッドを見れば、そのバイクがどのようなコースを想定しているか分かります。
全面にブロックがあればオフロード走行に主眼があり、ショルダーにブロックがあるならハイブリッド、ブロックがなければオンロード色が強いということです。もちろんタイヤを交換してしまえばイメージも走行性能も変わってしまいますが、標準タイヤの方向性はフレームのジオメトリーの延長線上にあるので、そのバイクの目指しているところが分かります。
流行のチューブレスレディタイヤ、定番のクリンチャータイヤ
タイヤはインナーチューブの代わりにシーラント剤(乳化ゴム)を使って空気を保持する、チューブレスレディタイヤが急速にシェアを伸ばしています。
新しいジャンルの「グラベルロードバイク」ではスタンダード的な存在です。チューブレスレディタイヤの利点は耐パンク性能が高く、仮に小さな穴が空いてもシーラント剤が穴を塞ぎ、そのまま走り続けることができるということ。
ただ、シーラント剤は時間の経過で硬化してしまうため、定期的にシーラント剤の追加が必要となります。このため、走行頻度が高い人や走行距離の長い人に向いているシステムです。
専用のホイールが必要な点とメンテナンス性以外に大きな弱点はなく、転がり抵抗も軽く、乗り心地も上質です。
他にクリンチャータイヤも根強い人気を誇ります。耐パンク性能はチューブレスレディタイヤに及ばないものの、クリンチャータイヤは種類が多く、コストも安く抑えられます。歴史があり、完成されたシステムなのでコストパフォーマンスにも優れています。
ブレーキをみれば、速度レンジがわかる
正しくは、制動力をコントロールしやすいというのがディスクブレーキのメリットです。制動力そのものはタイヤのグリップ力の限界を超えることはありません。どんな優秀なディスクブレーキでも、極細タイヤではタイヤがロックするだけです。
ディスクブレーキには油圧と機械式の2種類があります。高価なモデルは油圧ブレーキが使われており、操作感のスムーズさはリムブレーキにはないアドバンテージです。
機械式は油圧式の弱点であるエア噛みがなく、輪行時に車体を逆さまにしても心配がありません。どちらも天候に関係なく、リムブレーキよりも安定した制動力を誇ります。ただし、ブレーキローターに油分が付着しないように気を付けたり、脱臨時にピストンが動かないようにプレートを入れておいたりするなどの対策が必要になります。
見極めるポイントはブレーキローターの直径のサイズです。オンロードバイクは通常、前後輪とも140㎜が標準サイズです。
「グラベルロードバイク」はタイヤが太いのを前提に、専用コンポーネントの「SHIMANO・GRX」では直径が160、180、203㎜のブレーキローターが用意されています。ブレーキローターが大きくなるメリットは、レバータッチがカチッと感じるようになり、剛性力が増すことです。もちろん、わずかですが、制動力も向上します。
このようなことから、ブレーキローター径をみれば、どれだけ高速な状況からブレーキングすることを想定しているか想像がつきます。ただし、160㎜で不満に感じる人はめったにいないと思われます。
人里離れた山に入るなら高グレードコンポーネントパーツを
もし、メーカーのプロモーション動画のような走りを目指すなら、予算はできるかぎり確保しましょう。
その理由は、人里離れた山でメカトラブルに合う可能性をできるだけ低くしたいから。ライディングテクニックのある人であれば、慎重に安全なラインとゆっくりと走りバイクにかかる負担を小さくすることもできるでしょう。しかし、そういったコントロールができない環境だったり、ライディングテクニックに自信がなかったりすると、思わぬメカトラブルを起こしてしまう可能性もあります。
コンポーネントパーツのグレードは強度にも大きな差があるので、コースと自分のテクニックを勘案して自重することも必要です。
ツーリング車として使うときも、コースの環境には気を配りましょう。交通量が極端に少ないコースを走るときは、やはりトラブルの起きにくい高グレードモデルを選んで下さい。また、本格的にキャリアを装着して何泊するようなツーリングをするなら、キャリアを取り付ける台座などが十分な数あるか、確認しましょう。
逆にいうと、ポタリング程度で楽しむなら、元々のスペックが丈夫なバイクですから、そんなに高価なモデルを選ばなくても楽しめます。
フレームの素材は一長一短
最も安く入手できるのはクロモリフレームです。スポーツバイクのフレーム素材として、圧倒的な歴史と伝統を誇る素材なのでコストパフォーマンスに優れた製品を作れます。ですが、重量は重く、素材特性だけで判断するとアルミニウムやカーボンに遅れをとることも多くあります。
また、塗装面に傷がつけば、そこから錆が発生します。錆びてしまえば、パイプの肉厚が痩せてしまうので強度は落ち、剛性も低下します。しっかりとメンテナンスされていれば、独特のバネ感を保ち続けて快適に走れますが、一般的にイメージされているようなラフな扱いに強い素材ではありません。しかし、日本一周や大陸横断といった長期ツーリングをするなら故障した時の対応力など、他の素材よりも優れた点もあります。
アルミニウムは「グラベルロードバイク」の主力素材です。アルミニウムは大きく分けると7種類に分類されますが、「グラベルロードバイク」用フレームで使われているのは、亜鉛とマグネシウム、銅を添加した7000系と、マグネシムとシリコンを添加した6000系です。
丸いパイプのまま使われることは稀で、多くの場合、フレームに求められる応力に対応できるように液圧成形(ハイドロフォーミング)によって、それぞれのパイプが複雑な形状に加工されて溶接されます。したがって素材特性もありますが、同じジオメトリーでフレームを製作しても、形状による違いのほうが走行感に大きく影響します。
カーボンを使った高級モデルは、まだまだ少数派です。極限の軽さと強度を求められるモータースポーツから、しなやかさを求められる釣り竿まで、カーボン繊維、工法、マトリクス樹脂を使い分けられるので、メーカーが狙った通りの性能を製品にできるのは大きな魅力です。高価になってしまうのが弱点で、転倒時、フレームに衝撃が加わると、表から見ると大丈夫でも内部で層間剥離が起きてしまっている可能性もあります。確実に安全性を確認するにはCTスキャンやレントゲン検査などが必要となるため手軽な素材とはいいかねます。ただ、そうした弱点を押しても使いたくなるほど優れた性能を誇るのも事実です。
「グラベルロードバイク」は魅力的なジャンルのバイクですが、守備範囲が広いがゆえに、コストパフォーマンスのよい好みのバイクを入手するには明確なビジョンが必要です。互換性やクリアランス不足の確認など、事前にしっかりとした知識を身につけて、ぜひ、アップグレードしながら楽しんでください!
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菊地 武洋(きくち たけひろ)
自転車ジャーナリスト。
80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。
近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。
レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。