ロードバイクの可能性を広げるオールロードの新星VOTEC・「VRC Pro」

ドイツに本拠を置くVOTEC社の定番モデル「VRC」シリーズ。ニューモデルはドイツのプロダクトアワードで表彰されるなど、デビューと同時に高い評価を得ている。オン、オフロードを問わずに楽しめるオールロードというコンセプトは、欧米で急成長を遂げるグラベルロードバイクと似たコンセプトを持っている。

ポルシェのオリジナル自転車の製作を手がけた「VOTEC」

「VOTEC」というブランド名を聞いて、すぐに想像を巡らせられる人は多くないだろう。1990年代後半、ポルシェがオリジナルの自転車を開発したときに、製作を担っていたブランド……と答えられたなら、相当に詳しい人である。

少し補足すると、創業は1988年。ユルゲン・シュタイナーがドイツ南部にあるプフォルツハイムに「カラットバイクショップ」を設立し、アルミフレームの開発と生産を始めたのがはじまりである。そして1996年にポルシェ・バイクRを手掛けた後、紆余曲折を経て、現在はSigna Sports United傘下にあるInternetstoresが指揮を執っている。

「デザイン&イノベーションアワード2020」で賞を獲得した「VRC」シリーズ

「VRC」シリーズは、VOTECが注力して開発した「オールロードバイク」だ。ドイツで行なわれている自転車業界の高品質な製品を認証する「デザイン&イノベーションアワード2020」で賞を獲得するなど、ヨーロッパでは知られた存在だ。トップモデルの「Evo」を筆頭に、本国では「Elite」、「Pro」、「Comp」がラインナップされている。

(写真:長谷川拓司)

今回、試乗したのはカーボンフレームに、シマノ・アルテグラをセットした「VRC Pro」で、価格は38万9000円(税別)。

普通の人が聞いたら高いと驚くかもしれないが、サイクリストなら「ふふーん」といった反応になるだろう。カーボンフレーム+アルテグラという組み合わせなら、この価格は妥当な設定で、高くもなければ、安くもない。言い換えれば、実力次第で価格の印象は大きく変わる。そんなプライスタグだ。

もう少し、ハードウエアについて説明すると……このフレームの大きな特長となっているのがシートポストの固定方法だ。

Knotシステムは3本のボルトでシートポストを固定し、輪行時などはクランプごと抜いてしまえば、サドル高の再調整がいらないというアイデア商品だ。快適性を向上させるため、シートステーはシートチューブに接合されず、トップチューブのみにつながる。これによりシートステーの柔軟性も向上し、走行時にシートポストが積極的に動いて快適性が向上するという。

(写真:長谷川拓司)

「オールロードバイク」と「グラベルロードバイク」は、なにが違うのか?

「VCR Pro」は、「オールロードバイク」として開発されている。「グラベルロードバイク」との違いを明確に説明するのは、とても難しい。

単語の意味のまま考えるなら、グラベルロードは未舗装路用(砂利道)である。MTBのような本格的なダートは無理だとしても、舗装されたキレイな路面を走れないわけがない。オールロードにしても、全ての道を……となれば未舗装路も守備範囲内だ。設計寸法をみても、両者の違いに大きな差はなく、駆動系を司るコンポやタイヤの選択をみると、軸足が舗装路か未舗装路かという違いを感じられる程度だ。

「VRC Pro」のタイヤはビットリア・コルサコントロール30C、コンポはシマノ・アルテグラ、ともオンロードバイク用である。「グラベルロードバイク」ならばタイヤはセンタースリックだとしても、サイドにはブロックパターンが施されているだろう。コンポにしてもシマノならGRX、スラムならAXSが採用されているはずだ。

このようなことからも「VRC Pro」は、「グラベルロードバイク」と違うと言えば違う。オフロード比率の低い多くの人にとっては、スタイリングの違いが最大の違いだと言ってもいいだろう。

タイヤの空気圧で乗り心地を細かく調整する

走り出す前には重要な儀式がある。空気入れだ。「VRC Pro」の性能を引き出したいなら、空気圧の管理は丁寧にしなければならない。

タイヤ幅が狭かった時代はラフに「7.5barで!」でよかった。しかし、今はレースバイクでさえ25Cが主流となり、次は28Cだといわれている。幅が25Cを越えるようになると、太くなった分、同じ0.1barでも空気の量は大きく違う。

ましてや、「VRC Pro」のタイヤは30Cである。スポーツバイクの経験者なら0.1bar、初心者でも0.2barの違いを言い当てることができるほど走行感が違う。

空気圧のセッティングが影響をもたらすのは、主に快適性である。路面が荒れていれば、空気圧を低くするのがセオリーだ。では、路面がきれいならば空気圧は高いほうがいいかというと、そうではない。

空気圧を上げれば走行感は軽くなるが、乗り心地が悪くなる。とはいえ、許容範囲は大きいので、スイートスポットを外しても大きな問題ではない。ただ、ベストセッティングを出そうと思えば、それほど繊細なセッティングが求められる。そして、ビシッとセッティングが出た状態でコーナーを駆け抜ける気持ち良さは格別である。

推奨指定空気圧は4bar〜7.3bar。体格の大きなドイツ人やオランダ人も含んでの設定なので、体重60㎏台の人なら推奨指定空気圧の下限でも十二分だろう。本来であれば推奨指定空気圧の範囲の中間、コルサコントロールであれば5barからセッティングを出していくのが基本だが、今回は、4.3barで走り出す。

(写真:長谷川拓司)

平坦路で快適性を重視なら4bar、峠にも行くなら4.1bar

レース用のロードバイクと比べれば、車重もホイールの外周部も重い。当然、加速は鋭くないが、巡航速度での安定感は高い。ここがピュアレーサーとは違うところで、重さよりもエアクッションでフワッと路面に浮くような魅力のほうが際立つ。平坦路で快適性を重視のセッティングにするなら4bar、峠にも行くなら4.1bar程度だとバランスがいいようだ。

直進安定性の高いハンドリングと高いハンドル位置は、まさにストレフリーだ。初めてのロードバイクとして選ぶなら、乗り心地がいいことは大切だし、2台目としてツーリングバイクを求めると人にとっても、はっきりとキャラクターが違うのは新鮮だ。

同じコースでも自転車が変われば、景色の見え方も変わる。ペースを上げすぎずにゆっくりと走っていると、フロントフォークの剛性がどうだとか、細かなジオメトリーの話など気にしているのがバカバカしくなる。ゆっくり走るほどに良さを感じるとはいわないが、速く走ることに正義はない。

ロードバイクを走らせて、“いい自転車だなぁ”と感心させられるのは、機械との対話が楽しいバイクか、逆にまったく存在を感じさせないバイクかの2つだ。「VRC Pro」が目指すべきは後者であり、程よくルーズだ。自分の好みにするには、いくつか仕様を変えたり、時間をかけてセッティングを決めてたりする必要もある。だが、自分色に染めていくプロセスは面白いし、勉強にもなる。

100万円クラスのロードバイクと同じ規格!?

ノルウェーブルーに塗られたフレームは、絵本から出てきたような温和な雰囲気だ。しかし、規格に目を向けてみると、かなり頑健な仕様である。

ボトムブラケットはBB386という強靱な規格を採用し、フォークコラムも上下異径断面で1.125インチ/1.5インチという応力、剛性に富む仕様となっている。これは簡単にいえば、100万円クラスのロードバイクと同じ規格だ。基礎がしっかりしているフレームは、自分の好みに調整するときに目処を立てやすいというメリットもある。

例えば、峠の下りで思ったよりも走行ラインが外に出てしまうとする。考えられる主な原因は4つ。ジオメトリーの他は、タイヤ、ホイール、フロントフォークの剛性不足が挙げられる。それぞれの項目をさらに細分化しないと、最終的な原因は分からないが、「VRC Pro」のフォークであれば、剛性は十分。なので、改善できるすべきアイテムはホイールとタイヤとなる。

コンフォート系バイクなので、快適性の向上と制動力を上げるため、コルサコントロールの空気圧を4.0barまで落としてみる。ブレーキの効きは抜群だ。タイヤの接地面積が広くなり、スピードコントロール性に優れたディスクブレーキの魅力が存分に引き出される。想像はしていたが、効き具合はそれ以上だった。これは初心者、上級者を問わず、経験したら落とさずにはいられないだろう。

ロードバイクのブレーキはスピードコントローラーなので、絶対的な制動力は必要ないとうそぶく人もいるが、安全を守るブレーキよりも優先される性能がないのは、改めていうまでもない。

一方で、4.0barだと空気圧が低すぎて、回転半径の小さなタイトコーナーで一瞬、ヒヤッとした。タイヤの剛性が不足し、腰砕け状態になってしまったのだ。後日、違うタイヤで検証したら、フォークの剛性は十分にあったし、コルサコントロールでも4.1barまで上げると剛性不足は解消した。フレームの剛性、規格がしっかりしていると、このようにセッティング面に出ることが多い。

(写真:長谷川拓司)

“Expand your world.”「VRC Pro」とともに

何台も持っていても、新しい自転車は欲しくなる。理由はその時々によって違うが、完全に満たされることはない。また、欲しいモノの方向性も気分や流行によって変わる。2021年モデルは各ジャンルともに豊作そうだが、個人的にはツーリング車が欲しい。ただ、ランドナーを持ち出すような本格的なツーリングはできそうもないし、ロードバイクの守備範囲を拡げたオールロードや、グラベルロードといった話題のジャンルが気になる。

正直に言って、僕はオフロードを走るのは上手くない。むしろ、下手の部類に属すると言ったほうが正しいだろう。でも、未舗装路を走るのは嫌いではない。

「VRC Pro」のオフィシャル動画でグラベルロードを疾走しているのを観ると、これは自分には無理だ……と思うが、最近は未舗装路をコースに含んだイベントも増えてきたし、静かな林道をゴトゴトとゆっくり走るのは、ライディングテクニックとは関係なく楽しい。

普段のサイクリングにグラベルセクションを入れるだけで、1日の印象は大きく変わる。今回、撮影を兼ねて森の中も走った。静けさは、サイクリングの魅力の1つ。ロードバイクで峠を走るだけでも十分だが、森の中に入ればさらに静かで穏やかな時間を楽しめる。

「VRC Pro」は、本格的なシングルトラックのような山は無理だが、高低差の大きくない林道程度であれば守備範囲内だ。タイヤのクリアランスは35Cにも対応するので、セミブロックタイヤでグラベルロード風にモディファイすることもできる。さらに、少し予算はかかるがディスクブレーキの優位性をいかして、ホイール径を650Bに1サイズダウン、タイヤ幅を42や47Cを装着すればフカフカの走行感となる極楽仕様にもなる。

広い守備範囲と、弱点のない走行性能が魅力の「VRC Pro」。心拍数を上げて速く走ることを正義とするレースバイクとは住む世界が違うし、伝統的なツーリングバイクとも違う。ライダーに対して「もっと踏め、もっと回せ!」と迫ってくるようなところもないし、静かに走ることだけに専念できる。

コンポはアルテグラなので、これで性能に不足を感じる人はいないだろう。あったとしても、ローギアをさらに大きくする程度のこと。オールロードなら最高級コンポでなくてもいい。あとはサドルやハンドルなど嗜好性で性能が決まっているモノをどうするか? 程度だ。レース指向の人なら違う選択もあると思うが、そうでない多くの人にとってはバランスの高い魅力的なバイクである。

(写真:長谷川拓司)


変速機側のリアエンドはスルーアクスルシャフトがむき出しにならないように、VOTECのロゴがあしらわれたダイレクトマウント式のディレイラーハンガーによってカバーされている

変速ケーブルとリアブレーキオイルラインは段チューブ上面の専用口から内蔵される

イタリアの老舗タイヤメーカー、ビットリア・コルサコントロール30Cを標準装備。推奨指定空気圧は4〜7.3bar。ケーシングは320TPIという極細タイプでしなやかな走行感を演出。インナーチューブはシュワルベ・SV17A LIGHTが使われている

フロントブレーキのローター径は160㎜が標準仕様だが、オフロード用で使われる大口径の180㎜ローターにも対応するフラットマウント方式となっている

シートステーはシートチューブと接することなくトップチューブと連接し、悪路でステーをしならせて快適性の向上を図っている

シートポスト単品を外すのではなく、位置決めをしたままクランプバンドが取りはぜるVR Knot。フレームサイズの大きな人にとって輪行時に活躍する便利アイテムだ

チェーンステーにチェーンタッチによる小傷、汚れを防ぐために透明タイプの保護デカールが貼られている。また、チェーンステー下側にはチェーンが脱落して噛み込まないように金属プレートで保護している

ローターはセンターロック方式で素早く着脱ができる。ホイールの固定はMAVICのスピードリリースを採用。スルーアクスルはローターと反対側から工具で締め付ける

フロントブレーキのオイルラインはフォーククラウンから内蔵される。クラウン部の強度不足を避けるため、左右異形タイプだ

ハンドル&ステムは完成車メーカーでスペックインされるのが珍しい高級ブランドZIPP社の製品が選ばれている

(写真:長谷川拓司)


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菊地武洋

菊地 武洋(きくち たけひろ)

自転車ジャーナリスト。
80年代から国内外のレースやサイクルショーを取材し、分かりやすいハードウエアの評論は定評が高い。
近年はロードバイクのみならず、クロスバイクのインプレッションも数多く手掛けている。
レース指向ではないが、グランフォンドやセンチュリーライドなど海外ライドイベントにも数多く出場している。